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2019年7月 4日 (木)

シチリアとマルタ―言語の交差点(連載第1回)

序説

 シチリアとマルタは、ともに地中海の景勝地として近距離にあるが、歴史的にも連関性の強い島嶼である。とはいえ、現在シチリアはイタリア領の離島自治州であるのに対し、マルタは人口わずか40万人ながら独立国であるというように、地政学的には相違がある。
 また使用言語に関しても、シチリアは帰属するイタリアの公用語であるイタリア語を共通語としながらも、シチリア固有のシチリア語を主要な地方語とする二重言語地域であるが、マルタは固有のマルタ語と英語を併用公用語としながら、旧公用語であるイタリア語もかなり通用する。
 複数言語併用という言語状況の点では共通しながらも、使用言語のコンポーネントには相違が見られる。特に固有言語のシチリア語は印欧語族ロマンス諸語に属する言語であるのに対し、マルタ語は欧州地域の公用語中で唯一の阿亜語族に属し、アラビア語と近縁な言語である。このように、シチリアとマルタは固有言語の点でも大きな相違を成す。
 両者は地政学的に外部勢力に攻め込まれやすく、めまぐるしく支配者が交替してきた歴史を持ち、中世にはイスラーム勢力の支配下にも置かれた。現在の言語状況もそうした歴史の結果であるが、片やシチリアでは印欧語族系ロマンス諸語が定着し、マルタでは阿亜語族系言語が定着した。この相違はどこから生じたのか―。
 この問題が本連載を貫く主題となる。そうした言語発展史という点では、言語発展の問題をより一般的に扱った先行連載『言語発展論』から派生し、地方言語に焦点を当てた連載という性格を持つ。
 同時に、これを通じて、歴史的にしばしば戦乱を招いてきた対立緊張関係にある印欧語族と阿亜語族との交錯と混淆という問題にも到達するだろう。シチリアとマルタは、水と油のごとくに見える印欧語族と阿亜語族が出会う交差点のような位置にあるからである。

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