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2019年6月 8日 (土)

言語発展論(連載最終回)

第3部 新・世界言語地図

九 独立語族/独立語について

 前回まで、「語環」という概念によりながら、現存する世界言語を概観してきたが、地球上にはどの語環にも属さないように見える独立語族、さらにはどの語族にすら属さないように見える独立語も存在している。
 とはいえ、独立語族/独立語というものも、古くは周辺に同系の語環が広がっていたところ、その内包言語の多くが絶滅し、一部が存続している「残存言語」と、周辺語環から分離した結果、独立した「分離言語」とに大別できる。
 いずれにせよ、独立語族/独立語といえども、発祥以来完全に「孤立」していたわけではなく、形成過程で徐々に独立性を強めていったという限りでは「孤立」という語を冠するのは不適切であり―言語形態論上の「孤立語」と紛らわしい―、「独立語」と呼ぶものである。
 このうち前者の「残存言語」の代表例としては、中国南部からインドシナ半島北中部にかけて点在的に分布するミャオ‐ヤオ語族とタイ‐ガタイ語族、南インドに広く分布するドラヴィダ語族を挙げることができる。
 ミャオ‐ヤオ語族とタイ‐ガタイ語族は孤立語や声調の特徴からシナ‐チベット語族との共通性もあるが、語彙の相違も大きく、独立した語族とみなされるが、かつては中国大陸に広く分布していた可能性がある。漢民族が北方から移住・拡散していった歴史の過程で押され、点在的に残存した語族であろう。
 一方、ドラヴィダ語族はタミル語をはじめ、多くの言語を含み、現在でもインド南部で主要な日常言語として広く用いられ、印欧語族と並んでインドを象徴する語族である。
 印欧語族のアーリア人大移動以前、インダス文明で使用されていた言語もドラヴィダ系と推定され、かつイラン南西部で古代帝国を構築したエラム人のエラム語との近縁性も指摘されるので、現在はほぼ南インドに限局されるドラヴィダ語族も、かつてはより広域的な語環を形成していた可能性もある。
 一方、南欧のバスク語は同系言語を他に見出すことのできない代表的な独立語として著名であるが、フランス南西部のアキテーヌでかつて使用された絶滅言語アクイタニア語との同系性が有力視され、同じく絶滅言語で、かつてイベリア南部で使用されたイベリア語との関連性も指摘されているところから、仮説的には「バスク語族」あるいは「イベリア語環」をも観念できるかもしれない。
 後者の「分離言語」の代表例としては、日本語族とコリア語族が想定できる。いずれも膠着語としてウラル‐アルタイ語環との共通点を持ちながらも、東の辺境地で独自に発達を遂げたため、母音調和法則の消失など、音韻や語彙面で分離された言語である。
 なお、共通祖語を再構することはできないながらも、日本語族とコリア語族の間の近縁性を考慮すると、仮説的に「日本‐コリア語環」を立てることができるかもしれない。とすれば、これは独立した小語環となる。

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