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2019年2月13日 (水)

言語発展論(連載第22回)

第3部 新・世界言語地図

五 シナ‐チベット‐オーストロネシア語環

 シナ‐チベット‐オーストロネシア語環とは、比較言語学の通説上は別語族として立てられているシナ‐チベット語族とオーストロネシア語族とを併せて一つの語環に包括したものである。もっとも、後述のように、これらを共通祖語から派生した単一の語族とみなす新説もある。
 通説上のシナ‐チベット語族は中国語とチベット語に代表される東アジアの代表的な語族であるが、研究の進展により、ビルマ語の系統もチベット語に近縁であることが判明し、語族全体がシナ語派とチベット‐ビルマ語派の二系統に大別されるようになっている。
 この語族の共通指標は、形態論上の孤立語と声調の存在である。その典型例がシナ語派としてくくられるいわゆる中国語であるが、現代普通話の文章体には接辞が現れ、膠着語要素が加味されているとされる。
 一方、チベット語は元来接辞を用いる膠着語要素が強かったところ、時代が下るにつれ、接辞が消失して孤立語的性格が強まったと見られている。ビルマ語の場合は孤立語的性格を持ちながらも、基本的には膠着語に分類されている。
 こうした語族代表言語間での不統一は、果たしてこの語族が共通祖語から派生した語族なのかについて疑問を抱かせる。一つの語族とすれば、おそらく、祖語はビルマ語のような膠着語であった。それが時代下って、チベット語のように孤立語化していき、最極点としてシナ語派(中国語)のような純度の高い孤立語へと変容していったのかもしれない。
 なお、現代普通話の文章体に接辞が現れたのは、接辞が排除された純粋孤立語は文意の解釈に難を来たすこともあり得るため、文意を明確にする必要性の高い文章体では、再び遠い祖語の膠着語要素が発現してきたためということも考えられる。
 さて、一方のオーストロネシア語族は、比較言語学の通説上マレー半島やインドネシア、フィリピンから南太平洋ポリネシア、さらにはアフリカのマダガスカルにまで拡散する語族として包括されているものである。
 元来、台湾に発祥すると見られるこの語族は非声調言語にして、接辞を多用する膠着語に分類されるが、接辞の多くは動詞に組み込まれて語形成される形であり、ポリネシア諸語になると、そうした接辞も消失し、孤立語化している。
 この点、近年の比較言語学的研究により、シナ‐チベット語族とオーストロネシア語族との間の基礎語彙や文化的語彙の音韻対応が解明され、両者の内的連関が指摘されるようになっている。この研究はまだ途上であり、両語族が実は同一語族であることの証明は確立されていないが、証明されなくとも、仮説上同一語環に包摂することは有益かもしれない。
 そうなると、声調言語という共通指標は失われることになるが、声調言語の代表格である中国語でも上古音は非声調言語であったと考えられるようになっており、実は声調は本来、この語環の共通指標ではなかった可能性もある。
 ちなみに、シナ‐チベット語族の発祥地は意外にも中国東北部という推定がなされている。そうだとすると、典型的な膠着語系であるウラル‐アルタイ語環の発祥地とも重なり、元来は膠着語だったシナ‐チベット‐オーストロネシア語環の間にも何らかの基層的関連性を想定できそうである。
 この語環の分布をたどれば、中国東北部から大陸中央を経由した後、西進してチベット、ビルマ(ミャンマー)方面への陸伝いの拡散と、中国大陸を南下して台湾を新たな起点に東南アジアを経由して、東進して南太平洋、西進してマダガスカルまでの海伝いの拡散という壮大な言語地図が描ける。

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