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2018年2月 5日 (月)

アメリカ合衆国大統領黒書(連載第2回)

2 ジョン・アダムズ(1735年‐1826年)

 ジョン・アダムズは、ワシントン初代大統領の下、副大統領を二期務めた後、引き続いて第2代大統領に選出された。そのような経緯から、初代の影に隠れて目立たない宿命を負うこととなったが、アダムズも17世紀の古い開拓移民一族にルーツを持つ「建国の父」の一人である。
 アダムズの出自バックグラウンドはワシントンとは大きく異なる。アダムズはハーバード大学出身、法廷弁護士の経歴を持つが、その点で弁護士が政界への有力な登竜門となる米国の伝統の始まりを成す人物であった。しかも、ワシントンのような奴隷所有者でもなかった。そのため、アダムズは終生奴隷を所有することはなかったが、奴隷制廃止論者でもなく、彼の奴隷制に関する考え方は「棚上げ論」であった。
 そのことは、アメリカ独立宣言起草時から顕著であった。後に彼の再選を阻止して第3代大統領となるトマス・ジェファーソンが起草した独立宣言には当初、奴隷廃制止に関わる文言が予定されていたところ、奴隷所有者層が少なくなかった「建国の父」の間で異論が起き、分裂危機に直面したため、アダムズの仲裁により文言が削除されたのである。
 これにより、独立宣言は奴隷制廃止に言及せず、当初の合衆国憲法にも奴隷制禁止規定は置かれないこととなった。大統領となっても、アダムズは奴隷制に関しては議論しないことを主義とした。こうした態度は合衆国の分裂を避けるための法律家らしいプラグマティズムと評することもできるが、棚上げすることで合衆国における奴隷制廃止を、独立革命で倒した旧宗主国英国よりも遅らせる要因となった。
 一期だけで終わったアダムズ大統領の事績として特筆されるのは、外国人及び煽動諸法の制定である。これは米国市民権の取得要件を厳格化する改正帰化法、危険外国人の強制退去措置を定める友好的外国人法、戦時下での敵性外国人の強制収容・退去措置を定める適性外国人法、政府に対する虚偽・中傷文書の出版を禁止する煽動法という四法から成る総合治安立法であった。
 違憲論を押して推進されたこの立法は当時、フランスと敵対関係に陥り、戦争危機にあったという状況下での対策措置であったが、内容的には移民・外国人排斥と言論統制を強化するものであることは明らかであり、このうち適性外国人法はその後も存続し、第二次大戦当時の悪名高い日系人強制収容政策の根拠法としても援用された。
 それ以外の法律は時限法として改廃されたとはいえ、「自由」と「移民」の国と評されてきた合衆国の根底にある抑圧の要素を先取りする内容を有し、その潜在要素が入国規制の強化や「国境の壁」の建設に動き、かつ政権批判言論を「虚偽報道」とみなして排斥しようとする現職トランプ大統領の下で再び活性化されようとしているとも言えよう。
 大統領としては一期で終わったアダムズだったが、彼の子孫は第6代大統領となったジョン・クインシー・アダムズをはじめ、東部マサチューセッツを地盤に政治家を多く輩出する東部エリート政治門閥の先駆けともなった。その意味では、アダムズこそ公式の貴族制度を持たない米国におけるブルジョワ・エリート支配の創始者とみなすこともできる。

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