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2018年1月11日 (木)

アメリカ合衆国大統領黒書(連載第1回)

小序

 アメリカ合衆国大統領(以下、米大統領と略す)は、国民の投票によって選出される世界初の国家元首として、初代ジョージ・ワシントンから現職ドナルド・トランプに至るまで45代を数える。
 米大統領は国王―王冠なき国王―になぞらえられるほど、君主に近い広範な権限を保持しながら、その200年以上の歴史の中で、これまでのところ専制的な独裁者を出さない仕組みを維持してきたため、民主主義の象徴として称賛されることが多い。
 実際、初代ワシントンをはじめ、「偉人」として語られる歴代大統領は多い。筆者も少年期に何人かの米大統領の子供向け偉人伝を読まされた記憶がある。たしかに、表面的に見れば米大統領は「偉人」揃いなのかもしれないが、物事には必ず裏面がある。
 当連載は目下、トランプ現職大統領が歴代米大統領とは異質に見える大統領像を示して国際的にも論議を呼び、改めて合衆国大統領に対する関心が高まっている中、現職と比較対照される歴代米大統領の「裏の顔」をあぶり出そうといういささか意地の悪い試みとなる。
 具体的には、初代ワシントンから最直近の44代オバマまでの44人の米大統領について、表に出ない「裏の顔」を一人ずつ探っていく。その際、人格的な中傷に及ぶのではなしに、あくまでも公的に記録された大統領としての事績に潜む裏面をあぶり出す手法による。前置きはこれまでとし、早速本論に入っていこう。


1 ジョージ・ワシントン(1732年‐1799年)

 ジョージ・ワシントンは、アメリカの首都ワシントンにその名を恒久的に残した言わずと知れた初代大統領である。その他、西海岸のワシントン州や現代の原子力空母ジョージ・ワシントン号に至るまで、ワシントンの名を冠した事物は多く、現代でも崇拝されている初代である。
 ワシントンは独立前のバージニア植民地で、プランテーション経営者の家庭に生まれた。ワシントン家はジョージの曽祖父が17世紀に英国から移住してきた古い移民一族であり、中流ではあったが、その時代の習慣どおり、黒人奴隷所有者でもあった。
 ジョージも代々のプランテーションを継承し、最盛期には300人を越える黒人奴隷を使役して、小麦栽培を中核に醸造にも手を広げる多角的なプランターとして成功していた。そうしたことから、大統領となってもワシントンは奴隷制に反対することはなく、大統領官邸に複数の家事奴隷を連行し、使用していた。
 記録によれば、ワシントンは「個人的に」奴隷制を嫌悪していたというが、そうした個人的な心情が奴隷制廃止に政策を導くことはなかった。それどころか、当時官邸が所在した進歩的なペンシルベニア州では州内に6か月居住する奴隷の解放を義務づけていたことから、官邸の奴隷使用人を自身の地元バージニアとの間で頻繁に入れ替える脱法行為をしてまで奴隷を維持していたのである。
 このような点で、ワシントンは南部奴隷州を代表する典型的な「名士」の一人だったのであり、であればこそ、初代大統領として旧13植民地を一つに統合することができたのであろう。ただ、彼が初代大統領となり得た決定的な理由は軍歴にある。
 ワシントンはアメリカ独立戦争時に創設されたレジスタンス組織で後の米軍の前身でもある大陸軍の総司令官を独立戦争期間を通じて務め、多くの戦果を上げている。これも米国正史上は大いに美化されているが、彼が独立戦争過程で多くの先住民を攻撃し、殺戮したことは故意に看過されている。
 ワシントンは先住民を蛮族視どころか、猛獣になぞらえてその絶滅を目標としていた。特に独立戦争過程で「敵の敵は味方」とばかり英国側についた東部のイロコイ族を標的とする1779年の大規模な掃討作戦では、革製品の素材とするためにイロコイ族の皮を剥いだとされるような非人道行為も辞さなかった。
 大統領就任後も、先住民を合衆国建設の障害物として絶滅させる民族浄化の考えを変えることはなく、新たに創設された正規陸軍による浄化作戦を継続した。こうしたことからも、先住民にとってのワシントンは独立の英雄などではなく、民族とかれらの町の破壊者なのであった。
 かくして、奴隷制と先住民絶滅という他民族の苦痛・流血の上にアメリカ白人合衆国の土台を築いたのは、まさしくワシントン初代大統領の「功績」なのである。その意味で、支配層白人種にとっての彼は「偉人」であるが、被支配層有色人種にとっては「悪人」である。

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