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2017年6月18日 (日)

私家版朝鮮国王列伝[増補版](連載第11回)

十一 宣祖・李昖(1552年‐1608年)

 宣祖は伯父に当たる先代の明宗の世子が夭折し、他に男子なく、しかも父の徳興大院君も早世していたことから1567年、明宗の死去を受けて14代国王に即位した。10代での即位から40年余りに及んだその治世は四期に分けられる。
 第一期は治世初期の改革期である。民生に配慮する若い国王は先代明宗が外戚を排除して開始した儒教的改革政治を継承し、引き続き士林派を重用した。その過程で、文学科目を偏重した科挙制度の改正も主導した。
 だが、この第一期の善政も士林派内部の派閥抗争のせいで暗転する。治世第二期の75年頃から始まるこの抗争は、沈義謙率いる東人派と金孝元率いる西人派の間で発生した。この両派の対立の根底には朱子学内部の理論党争があった。
 ここでは詳細に立ち入らないが、東人派は保守的で朱子の学説を踏襲する李滉、西人派は朱子の学説に拘泥せず、より合理主義的かつ実践的な志向性を持つ李珥に近い派閥であった。両派の争いは理論党争にとどまらず、官職をめぐる権力闘争に発展した。
 当初は柔軟な李珥が両派の仲介役として対立をある程度止揚していたが、84年に彼が他界すると、押さえが利かなくなり、以後は西人派と東人派の間で政権が行き来する政情不安に陥った。
 そうした中、対日防衛という重要問題をめぐる両派の対立が国家の存亡に関わる事態を招来する。元来、李珥は強兵論を説き、死の前年には女真や日本の侵略に備えるべく、「養兵十万」を宣祖に進言していた。これに対し、保守的かつある意味では平和主義の東人派は反対した。この対立は秀吉の朝鮮侵略の直前に派遣された日本視察団にも反映され、当時の東人派政権は日本の侵略可能性を警告した西人派正使の報告を無視した。
 この政策判断の誤りは、実際に警告が現実のものとなったとき、高くつくこととなった。朝鮮側では「壬辰倭乱」と呼ばれる豊臣秀吉による第一次朝鮮侵略(文禄の役)で、軽武装だった朝鮮軍は日本の封建領主連合軍を撃退できず、首都漢城は陥落、宣祖も義州まで逃亡して明の介入を要請しなければならなかった。
 しかし、明からは朝鮮朝廷の頭越しに対日講和交渉をされたあげく、その交渉も決裂して、「丁酉倭乱」と呼ばれる秀吉の第二次侵略(慶長の役)を受けるが、これは秀吉の急死による日本軍撤退という僥倖に助けられた。こうして92年の「壬辰倭乱」に始まり、98年の「丁酉倭乱」で終わる宣祖治世第三期は朝鮮王朝創始以来最大の亡国危機の時代であった。
 これを乗り切った宣祖晩年の第四期は後継者問題で揺れるが、その詳細は次の光海君の項で言及する。この時期の宣祖の外交上の功績は、豊臣政権から徳川政権に交代した日本と早期に講和し、1607年に第一回朝鮮通信使を派遣したことである。この対日国交回復を最後の事績として、宣祖は翌年死去したのである。
 その治世は中近世の過渡期にあって内憂外患に見舞われたが、自らは党争に深入りすることなく長期治世を保ち、どうにか内政外交上の課題を処理して李朝体制の命脈をつないだことは、宣祖の功績であった。


§9 宗義智(1568年‐1615年)

 宗義智〔よしとし〕は、宗氏にとって最も困難な戦国時代末期から江戸時代草創期の大変動期に宗氏当主となった人物である。本来、彼は追放された元当主宗将盛の息子の一人であったが、養父宗義調によって早世した二人の兄の後、当主に擁立された。
 しかし、秀吉の九州征伐という難局に対処するべく、いったん義調が当主に復帰したため、当主の地位が確定するのは、義調が死去した1588年である。この頃、宗氏は明を征服する際の先導役として朝鮮を日本に服属させるという無理難題を要求する秀吉の意向に沿って朝鮮との交渉を担わされ、苦慮していた。
 明の冊封国であった朝鮮が明の征服に手を貸す可能性はなく、義智の交渉も当然ながら挫折し、秀吉の朝鮮出兵を迎える。義智は名将小西行長の娘婿でもあり、行長とともに文禄・慶長の両戦役で大活躍し、戦績を上げている。朝鮮との交戦が義智の本意であったかは疑問であるが、対馬の辺境領主が天下人に逆らえる立場にはなかった。
 こうして、宗氏は秀吉配下の武将・大名としてその地位を確立するのであるが、そのことは秀吉死後に来る関ヶ原の戦いで反徳川の西軍に与するという結果をもたらすことになる。しかし、義智は近世大名として生き残った。その晩年の事績については、次項に譲る。

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