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2017年1月 2日 (月)

私家版朝鮮国王列伝[増補版](連載第2回)

一 桓祖・李子春(1315年‐1360年)

 李朝の王家となった李氏の出自民族については韓族とみなすのが通説だが、遠祖を漢族とする史料もあるほか、異説として女真族説も提出されている。
 女真族説は李氏の本拠は朝鮮半島でも最北部であり、14世紀初頭頃の同地域には女真族が多数居住していたことから提起される。しかし、女真族は韓族からは蛮族視されており、明らかに女真の出自で韓族を束ねる王家に就く可能性は乏しく、女真族説には無理があるだろう。仮に女真系としても、相当に韓族に同化していたものと考えられる。
 役職的には、李一族は元朝の千戸長・ダルガチの地位を世襲して、女真族の統制を担当してきた軍閥であることから、在地の女真系有力者と通婚し混血していた可能性はあるかもしれない。
 正史上は、元来全州を本拠とする全州李氏の一派が北部へ移住し、現地で元朝から認められて千戸長・ダルガチに任命されたことになっている。ただ、千戸長やダルガチは元朝に忠実なモンゴル族を充てることが通例であったため、このような韓族功臣説にも難点がないわけではない。
 いずれにせよ、北方軍閥として台頭してきた王朝創始者の太祖・李成桂自身には異民族風の性格は特に見られず、韓族からも異論なく政治的実力者として認められているところからすれば、出自はともあれ、実質上は韓族と変わりなかったと考えられる。
 ただ、彼の王朝樹立への道程は一代限りのものではなく、第3代国王太宗が後に桓祖の廟号を追贈した成桂の父(太宗の祖父)李子春の活躍にも負う面があった。吾魯思不花(ウルス・ブカ)の蒙古名を持った子春の代ではまだ表向きは元に仕える身であったが、当時の高麗は元の間接支配下に置かれていたから、李一族は高麗の上位支配層側にいたことになる。
 しかし、時の恭愍王は元朝の衰退を見て、元からの自立政策を主導した。当時元が高麗支配の拠点としていたのが今日の北朝鮮咸鏡南道に属する地域に設置した出先機関の双城総管府だったため、元を撃退するには戦略上ここを叩く必要があった。
 そこで、王は当時北方の半独立的軍閥として実力をつけていた李子春に役職を与えて取り込み、双城総管府攻撃に協力させた。作戦は成功し、1356年、総管府は陥落する。その軍功から、子春は従二品・東北面兵馬使という地方軍区司令官に任命された。
 その後、子春はさらに栄進するも、中央政官界には進出できないまま、1360年に死去した。その後を継いだのが1335年生まれの次男成桂であった。


§1 宗氏の台頭

 中近世の日本側で朝鮮との窓口役を担った宗氏は本姓惟宗氏といい、平安時代には大宰府の在庁官人にすぎなかった。宗氏は大名化してからは、平氏流を称するようになるが、本来の惟宗氏は渡来系豪族秦氏―『日本書紀』によれば、朝鮮古代王国百済の出自―を祖とする平安貴族である。
 宗氏の家伝では、鎌倉時代の13世紀前半、幕府の許可を得ずに国交のない朝鮮の高麗と交易をしていた当時の対馬の支配者阿比留〔あびる〕氏を大宰府が咎めたのに対し、阿比留氏がこれを無視したことが反乱とみなされ、討伐のため対馬に送り込まれた宗重尚が阿比留氏を討って対馬国主となったとされてきた。
 今日でも対馬に子孫が多く分布する阿比留氏とは、関東の上総畔蒜〔あひる〕郡を出自とすると言われる氏族で、9世紀初頭に対馬に入り、在庁官人となり、11世紀には刀伊(女真族)の入寇に際して活躍するなどし、事実上の島主として豪族化していた。
 阿比留氏が鎌倉時代に勢力を失ったことはたしかだが、宗重尚の実在性や阿比留氏討伐譚は史実としては疑われており、確実に実在が証明できる宗氏の最も古い当主は第一回元寇(文永の役)で高齢を押して参戦・戦死した宗助国(1207年?‐1274年)である。
 助国の後の宗氏系図には生没年不詳者が多く、不明点が少なくないが、宗氏が当時北九州の有力御家人・地頭・守護であった少弐氏の配下で武家として実力をつけ、少弐氏の衰退とともに、次第に対馬守護として取って代わっていったこと自体は間違いない。
 しかし李朝樹立以前の宗氏はまだ対馬領主としての支配権を確立しておらず、朝鮮との交易も九州の諸大名、北九州や対馬の有力商人らがばらばらに行なっている状況であった。そうした中、14世紀末の李朝の樹立は独自の通交を始めた宗氏にとっても大きな転機となったのである。

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