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2017年1月29日 (日)

私家版琉球国王列伝(連載第8回)

九 尚寧王(1564年‐1620年)

 先代尚永王は嫡男がないまま没したため、後継には甥(妹の子)の尚寧が就くこととなった。尚寧は第二尚氏王朝3代尚真王の長男尚維衡を祖とする大名小禄御殿の4世に当たる王族である。ここで王統が切り替わることになるが、特に動乱は記録されておらず、尚寧への継承は王朝総意であったと見られる。
 即位した尚寧が最初に直面したのは、日本との外交問題であった。1591年、時の天下人豊臣秀吉の朝鮮出兵に際して、糧食の提供を求める協力要請が薩摩の島津氏を通じてあったが、秀吉が最終的に狙う明の冊封国でもあった琉球王朝内では中国系渡来人を祖とする重臣謝名利山(親方)の強硬な反対もあり、協力は秘密裏の最小限とするほかなかった。
 実は九州征伐後の秀吉は琉球に服属をたびたび迫っていたが、秀吉存命中は実現しなかった。しかし徳川幕府が樹立されると、状況が変化する。仙台に漂着した琉球船の送還に家康が便宜を図ったことを理由に、薩摩藩を通じて謝恩使の派遣を求められるようになったのだ。
 1609年には初代薩摩藩主・島津家久が幕府への服属を要求してきたのに対し、かの謝名親方が反対し、使者を侮辱したとされる。これに激怒した島津藩は幕府の許可の下、琉球に侵攻、琉球はあっさり降伏した。島津藩の軍勢は3000人ほどであったが、太平が続き軍備を重視していなかった琉球側はこれに対抗し切れなかった。
 尚寧王は一時捕虜となり、江戸に連行され、時の将軍徳川秀忠と謁見させられた。最終的には琉球帰還を許されたものの、以後の琉球は奄美大島を割譲させられたうえ、薩摩藩の附庸国という地位に置かれ、「掟十五条」なる一方的な不平等条約に基づき、薩摩藩の在番奉行を通じて支配されることになった。
 同時に、琉球は国王の代替りごとに謝恩使を、徳川将軍の代替りごとに慶賀使を江戸上りで派遣する義務を負わされ、薩摩藩を介して幕府の陪臣的な関係にも置かれたのである。
 尚寧王の在位は約30年に及んだが、彼の治世は薩摩藩の琉球征服という屈辱的な史実とともに記憶されることとなってしまった。非主流派から即位した尚寧王は権力基盤が不十分なため、謝名親方のような親明・対日強硬派の重臣を抑え切れず、結果として軍事的征服という事態を招いてしまったように見える。


二´ 島津家久(1576年‐1638年)

 島津家久(旧名・忠恒)は島津氏全体では18代目だが、徳川幕藩体制下の薩摩藩主としては初代に当たる。先代で父の義弘は「個人的な判断」により関ヶ原の戦いで西軍に与したため、戦後の島津氏は改易の危機にあったところ、事実上の当主として講和交渉役を務めていた先々代で家久の伯父義久の反対を押し切って家久自ら上洛して家康に謝罪・服属し、本領安堵を得た。
 こうしたエピソードからも、家久は直情的な人物で、激しい気性の持ち主でもあったようである。とはいえ、義久も藩内では大御所として権勢を保っていたため、1611年に義久が没するまでは家久の権力には制約があったと考えられる。
 琉球征服も義久存命中の出来事であり、義久は琉球との関係を重視し、出兵に反対していたとされるが、ここでも家久が反対を押し切って強行した。このように、琉球出兵は島津家中でも統一された方針ではなかったようである。
 そもそも日本側では「琉球征伐」(琉球側では「己酉の乱」)と呼ばれる琉球侵攻の要因については、確固たる定説がない。論点は幕府と薩摩藩のいずれが主導したかであるが、家久が出兵を決めたのが幕府自ら琉球に水軍を派兵するとの情報を得た後であることや、最終的に琉球は幕府直轄地でなく、薩摩藩附庸国として幕末まで確定したことなどからも、薩摩藩の主導性が強かったと言える。
 土壌的に稲作に適さないため農民が少なく、中世的な半農半士体制が持続していた独特の構造を持つ薩摩藩は、台風・火山噴火などの災害の頻発とも合わせ、恒常的な財政難にあったことから、琉球の貿易利権を自ら管理統制し、密輸を含めた貿易で藩財政を補う狙いがあったと見られる。
 薩摩藩が琉球に介入しようとする動きはすでに16世紀後半の戦国時代から起きていたが、一介の南端辺境領主から徳川幕府を後ろ盾とする近世大名の地位を確保した島津氏としては、幕府の権威を借りつつ満を持して琉球を手中にしたということだったのかもしれない。それには、家久の武断主義的な傾向も寄与しただろう。

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