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2015年7月 5日 (日)

犯罪精神医学事始(連載第6回)

5 犯罪精神医学の方法

 犯罪精神医学の方法を大きく分ければ、鑑定、臨床、予防の三つがあるが、このうち鑑定をめぐる理論については、従来「司法精神医学」と称されて、歴史的な蓄積がある。しかし、臨床は依然未開拓な状態にある。そこで、ここでは鑑定については専門書・論考に譲り、臨床に焦点を当てる。

 犯罪精神医学は、臨床医学としては一般精神医学の応用分野でありながら、それとも異なる特殊性を持つ。臨床犯罪精神医学は触法者の治療という特殊な目的を帯びることから、その臨床の場も、医療観察下を除き、病院ではなく、刑事施設や少年院等の拘禁施設となる。
 また、これは鑑定においても同様であるが、はじめにまず触法行為とその結果としての各種強制処分が前提され、本人または家族が治療の意思をもって医師を受診する任意的な治療の形をとらない。そのうえで、犯罪の原因を成す精神的な疾患を発見し、治療することが目指される。
 そのため、その治療も純粋医学的な治療ではなく、再犯防止を目指す矯正や保護といった処遇の一環としてなされるものである。ここでは医師を頂点とする医学中心主義は通用せず、刑務官や少年院教官、保護観察官、保護司などとのチームワークをもって治療が成立する。
 その意味で、犯罪精神医学の臨床は矯正プログラムに基づいた治療的処遇である。治療的処遇における医師の役割は医学的な面からのコーディネーターであり、リーダーやマネージャーではない。

 これに対して、医療観察下では対象者の精神疾患が法的にも心神喪失・耗弱を認定されるほどに重症であることから、病院での治療が優先されるため、通常の精神医療に近い環境となるが、その場合でも、触法者を対象とすることに変わりなく、犯罪事象を無視した一般的な治療は成り立たない。

 このように、犯罪精神医学の臨床は、病院で医師が患者と向き合い、病名診断し、薬物処方する身体医学のアナロジーとして発達してきた一般精神医学とは対照的である。犯罪精神医学は病気そのものより、その現われ方に着目するという点で、方法論体系的な違いが見られる。
 また触法行為には精神疾患のみならず、個々の性格的な素質の関与も大きいことから、臨床に当たっても言わば体質に相応するパーソナリティの改善に関心が向けられるという点では、漢方医学的な視座も持ち合わせていると言えるかもしれない。

 なお、犯罪被害者臨床の分野では、処遇はなく、治療のみであるので、一般精神医学の臨床に近いが、ここでも病気から入るのでなく、個々の被害内容(体験)からアプローチすべきであり、その限りではやはり一般精神医学の方法論がそのままパラレルに当てはめられるわけではない。

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