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2015年5月 3日 (日)

犯罪精神医学事始(連載第2回)

1 犯罪精神医学の対象①

 犯罪精神医学における研究と治療、鑑定、予防の実務の対象とされるのは、一般精神医学と異なり、特定の犯罪の原因もしくは重要な因子となるような精神障碍、及び犯罪被害体験を契機として引き起こされる精神障碍であり、一般精神医学に比べて狭く限局される。このように犯罪精神医学の特質は、特定の精神疾患から入るのではなく、まずは犯罪事象を出発点とすることである。
 また犯罪精神医学の対象を患者となる人で分ければ、大きく犯罪の加害者側と被害者側とに分かれるが、後者は一般精神医学でカバーできる部分もあるため、犯罪精神医学固有の対象は加害者側ということになる。そこで、本連載でもまずこの固有の対象領域を考察し、次に被害者側の問題にも及ぶことにする。

 犯罪精神医学が対象とする精神障碍がその原因や重要な因子となる犯罪行為は、実のところそう多くはない。まず、専門的な知識や頭脳を悪用して犯される詐欺、横領、背任のような知能犯や役職者が金銭的な利欲から職務行為に関連して犯す汚職犯、また行政的取締法規に違反する行政犯のような犯罪行為は除外される。
 そうすると、残るのは、おおむね次の五種に分類される犯罪群であるが、これらの範疇に含まれる犯罪行為は犯罪総数の中では少数であっても、深刻な社会不安をもたらすものが多く、単に犯行者を法的に処罰するだけで解決がつくものではない。
 なお、以下の五分類はおおまかなものであり、一人の犯行者が複数の範疇に及ぶ複数の犯罪を同時または累積的に犯す場合もあり得ることを前提としている。

Ⅰ 病理性暴力犯罪
何らかの精神障碍が原因や因子となっている暴力犯罪。ただし、Ⅱに含まれる性暴力犯罪とⅣに含まれるアルコール・薬物依存性の暴力犯罪は除く。不可解な動機による殺人犯罪のようなものが典型的であるが、統合失調症や鬱病のような精神疾患を背景とした暴力犯罪も含まれる。ストーカー行為のような非暴力的な病理性犯罪でも、被害者に身体・生命の危険を感じさせるものはここに含める。

Ⅱ 性暴力犯罪
強姦が典型的であるが、強制わいせつや痴漢行為のように非姦淫型の性犯罪も含まれる。常習的である必要はなく、要するに「力」で性行為を強要する犯罪である。ただし、飲酒行為に起因する一過性の痴漢行為のようなものは除く(Ⅳの依存性犯罪群に含まれる可能性はある)。

Ⅲ 常習犯罪
特に窃盗症や放火症のような衝動制御障碍を原因とする常習犯罪。性衝動制御障碍を原因とする常習的性暴力犯罪については、Ⅱの性暴力犯罪に含める。

Ⅳ アルコール・薬物依存性犯罪
アルコール依存症や特定薬物依存症を原因・因子とする犯罪。そのうち違法薬物依存症の場合は、違法薬物を所持・摂取すること自体が犯罪行為となる。依存症者がアルコールや薬物摂取下で犯す暴力犯罪も含む。

Ⅴ 病理性過失犯罪
病的な注意散漫状態で惹起される過失犯罪。アルコール・薬物依存症者がアルコール・薬物摂取下で犯す過失犯罪も含む。

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