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2012年5月11日 (金)

犯罪と非処罰(連載第19回)

16 性犯罪(上)

pencil個別的な犯罪対策の中で、おそらく世界各国において最も厄介な難問となっているのが性犯罪である。ただ、性犯罪といっても、それには大きく「性暴力犯」「性風俗犯」「性表現犯」という三つの系統がある。
 中でも最も実害が大きく、深刻なのが「性暴力犯」であり、通常、性犯罪というときはこれを指している。「性暴力犯」の典型は強姦罪であるが、現代では性的自己決定の意識が高まり、「性暴力」の概念枠は広がる傾向にある。従って、ここでは「非犯罪化」よりも「犯罪化」がモードである。
 この点、日本刑法上は強姦罪(刑法177条)に加え、同様に暴行または脅迫を手段として「姦淫」以外の性的行為を強要する強制わいせつ罪(刑法176条)という規定がかねてより用意されている。
 これに加えて、近年地方自治体条例上で暴行または脅迫よりも弱い手段を用いて性的行為を強要した場合にも、これを「痴漢行為」として処罰する規定を置くことが一般化している。
 しかし、性的自己決定の今日的水準からすれば、このように性暴力の形態を細分化したうえで、強姦を最も重く処罰するという定め方はもはや過去のものである。むしろ、およそ相手方の意思に反して性的行為を強要することを包括して「性的強要罪」として定めるべきである。

pencil以上の性的強要罪は相手方の明確な意思に反して性的行為を強要する型の犯罪であることから、当事者間に性的行為に関する合意がなかったことが犯罪の成否を分けるポイントとなる。そのため、裁判上合意の有無がしばしば激しく争われ、そうした場合には被害者が公開の法廷で厳しい反対尋問にさらされ、新たな屈辱感を味わうこと(いわゆる第二次被害)も少なくない。
 だからといって、当事者間の合意に関する立証基準を緩和すれば、冤罪に直結しかねない。そこで、強要型の性犯罪とは別に、他人を支配下に置いて自己または第三者に対して性的に奉仕させること自体を犯罪とする「性奴隷化罪」を創設することが有益である。
 この場合、被害者は消極的・受動的ではあれ、性的行為に対して同意を与えてはいるのであるが、全体としては性奴隷として加害者の支配下に置かれているのである。
 その際、性的奉仕が有償か無償かは問わない。たとえ被害者が性的奉仕に明確な対価が与えられる売買春営業に雇われていたとしても、雇用主の支配下で逃れることのできない状態に置かれていたような場合は、雇用主に「性奴隷化罪」が成立するのである。
 こうした規定が存在すれば、当事者間に合意がなかったことの立証が困難で、性的強要罪が成立しない場合であっても、性的行為の状況からして「性奴隷化罪」が成立する可能性はあることになり、被害者の負担を軽減することもできるはずである。

pencilところで、日本刑法上強姦罪をはじめとする性暴力犯罪は、被害者の意思を尊重し、原則的に被害者側の告訴を待って訴追できる親告罪とされているが、こうした被害者配慮によってかえって被害者が加害者の報復を恐れて告訴に踏み切れず、立件されないケース(いわゆる暗数)が少なくないと見られる。
 そこで、親告罪という規定は廃しつつ、性暴力犯の捜査・訴追に当たっては、被害者側の明示的な意思に反してはならないという留保をつけておくほうがむしろ被害者のためになるであろう。
 なお、性暴力犯は、異性間のみならず、同性間でも成立する。性的自己決定の観点からすれば、およそ性的行為は完全な合意に基づき、隷属関係なしに行われるのでなければならないからである。

pencilそれでは、「非処罰」の構想の下で、以上のような性暴力犯罪に対する処遇はどう定められるべきか。
 まず、最も重大な性的強要罪には性欲を自律的にコントロールできない病理性の強い犯行者もしばしば見られるため、最大で第三種矯正処遇が相当である。
 ここで問題となるのは、通常の矯正プログラムをもってしては矯正困難な者に対して、去勢効果を持つ薬物を投与することが許されるかどうかである。
 この点、薬物投与の方法によるとしても、対象者の意思に反して去勢を強制することは人道処遇の原則に反し、今日では許されることではない。しかし、厳格な医学的判断と対象者の同意に基づく限り、こうした究極の処分をためらうべき科学的理由も乏しい。
 そこで、第三種矯正処遇のうち、医療的処遇を内容とするB処遇の対象者で、なおかつ終身監置に付された者に対しては例外的に薬物去勢に付する可能性を持たせてよいと考える。その際、去勢の必要性に関する3人以上の精神科医による一致した判断に加えて、本人の同意、さらにそれらを確認する裁判所の許可を得て実施されるべきである。

pencilところで、包括的な性的強要罪が適用される者の中には、一過性の痴漢行為者なども含まれてくるので、保護観察相当の場合もあり得る。そこで性的強要罪の処遇の幅は広く取って、第三種以下の矯正処遇または保護観察ということになるだろう。
 他方、「性奴隷化罪」では一過性ということは考え難く、保護観察相当の場合はないが、犯行者の病理性は性的強要罪の場合ほど高くはないと考えられるから、第二種以下の矯正処遇とすべきであろう。

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