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2012年4月 5日 (木)

犯罪と非処罰(連載第6回)

5 処遇の種類

pencil刑罰制度は死刑から罰金刑に至るまで豊富な種類を持つが、これは刑罰制度が本質的に応報という性格を残しているために、上位は生命から下位は財産に至るまで、およそ人の法益を剥奪するということに強い関心を持っているためである。
 ただ、教育刑論の考え方が浸透するにつれ、教育の要素をおよそ持たない死刑(及び身体刑)は多くの国で減少・消滅していき、罰金刑も単なるペナルティーとしての行政罰などに代替されていく傾向があり、先進的な刑罰制度にあっては刑の種類は簡素なものとなると同時に、人身の自由を拘束する施設内処遇よりも拘束しない社会内処遇を充実させる傾向が強まってくる。

pencil「非処罰」の構想はこの傾向をいっそう推し進めていく。まず矯正と更生のための処遇という要素を本質的に欠く死刑(及び身体刑)に相当する処分は存在し得ない一方、罰金刑にも処遇という要素は極めて希薄であることから、罰金刑はすべて行政罰もしくは没収に転換される。
 その結果、「非処罰」の下で予定される処遇とは、基本的に施設内処遇に相当する「矯正処遇」及び社会内処遇に相当する「保護観察」の二種類だけとなる。
 実際上、前者の「矯正処遇」は対象者の特性と処遇内容の違いによりさらに種別が細分化されるが、いずれにせよ「矯正処遇」は一定以上の重罪を犯した者を対象とする処遇である。
 その限りでは今日の自由刑に類似するが、刑罰ではないことから、その実施場所はもはや「刑務所」とは呼ばれず、例えば「矯正センター」などと呼ばれるであろう。
 他方、「保護観察」はより軽い罪を犯した者を対象に、独立の処分として付せられる処遇である。この点、日本の現行制度上こうした独立処分としての保護観察は少年に対するものしか存在しないが、「非処罰」の構想の下では成人に対しても拡大され活用されるのである。
 以上に対し、広い意味での処遇の一つとして「没収」が加えられる。「没収」は犯罪に起因する不法な収益を吐き出させるもので、それは人でなく物を対象とする処分であるが、上述の「矯正処遇」や「保護観察」と併用して、または独立して付し得る一種の処遇である。
 このうち、独立処分としての「没収」は、例えば少額な物品の窃盗や違法薬物の単純所持などの軽微な犯罪を犯した者を対象とする最も軽い処遇として位置づけられる。

pencilさて、以上の「矯正処遇」「保護観察」に「没収」を加えた三つの処遇の間には、一応「矯正処遇」>「保護観察」>「没収」という軽重関係を認めることができる。しかし、この軽重は刑罰の軽重関係のように犯罪の重大性のみによるのではなく、処遇対象者の犯罪性向の強弱によるところが大きい。
 この点に関連して問題となるのは、一人の者が複数の犯罪を犯し、併合審理を受ける場合の処遇である。日本刑法上これはいわゆる「併合罪」の問題とされ、その処理は基本的に最も法定刑の重い罪を基準として行われる(刑法45条乃至47条)。
 このような処理の仕方には、明白に応報刑論の思想が込められている。なぜなら、これは併合犯罪の組成(犯罪パッケージ)を犯罪学的に分析することなく、画一的に最も重い罪を基準とした厳罰を科そうとするものにほかならないからである。
 これに対して、「犯罪→処遇」定式の下では、犯罪パッケージの犯罪学的分析を通じ、その中で最も中核的とみなされる罪の処遇に付することになる。
 そうすると、例えば殺人罪と窃盗罪のパッケージであれば、たいていの場合殺人罪が中核的とみなされるであろうが、傷害罪と窃盗罪のパッケージとなると傷害罪のほうが重いから当然に傷害罪を基準とするのではなく、例えばこのパッケージにおける傷害罪とは窃盗罪の共犯者との内輪もめから相手を殴り、傷害を負わせたにすぎないといった場合のように窃盗罪のほうが中核的とみなされ、窃盗罪に定められた処遇に付せられることもあり得るのである。
 こうした併合犯罪における中核性の認定は併合審理に当たる裁判所が犯罪学的知見に基づいて行う。

pencilなお、日本刑法上には、法的に併合罪でありながら、犯罪学的には一罪性が強いために科刑上一罪として扱う場合にも最も重い刑を基準とする旨の規定がある(刑法54条1項)。しかし、「非処罰」の構想によれば、このような場合もやはり犯罪学的に罪も中核的な罪の処遇に付することになるのである。

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