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2012年2月 4日 (土)

〈反差別〉練習帳(連載第39回)

実践編

レッスン8:性差別

例題1:
[a] あなたは公私の各種書類上の性別記載欄は不要だと思うか。

(1)思う
(2)思わない

[b] あなたは生物学上の性別と自意識上の性別の一致(性同一性)が認められない人に対して、どのような感情を持つか(当事者を除き、自由回答)。

 性差別の中のエース級は何と言っても女性差別であるが、近年は「性別」という区別そのものを根底から問い直そうとする動きも強くなっている。 
 私たちの社会生活を様々に規定する「性別」には一応生物学上の根拠が認められ、「性別」を分けることが直ちに差別に当たるわけではないが、種々の書類上でいちいち性別の記入を求められることに素朴な疑問を感じることはないだろうか。
 その書類が使用される目的上、性別情報が不可欠であるとは言えないのに、性別の記入を求められると、性別に基づく何らかの差別を受けるのではないかという疑念を招くことになる。その意味でも、各種書類上の性別記入欄は特別な必要性のない限り、削除することが望ましい。
 実際、性別は相対的でもあり、[b]で取り上げるように、性同一性が認められない人、あるいはそもそも性別に関して確定的な自意識を持たない人も存在する。このような人たちにとっては、性別記入を強いられること自体が苦痛と感じられる場合すらあるだろう。
 そうした人たちの中でも、[b]のように性同一性が認められない人は広くトランスジェンダー(以下、TGという)と呼ばれる。
 ここで留意すべきは、レッスン7で取り上げた同性愛とTGは問題の所在が異なるという点である。同性愛とは生物学上の性別と自意識上の性別は一致しているが、異性ではなく同性に性的指向がある人のことであり、性同一性が認められる以上、TGには含まれない。
 こうした同性愛者に対しては、レッスン7でも見たとおり、「不道徳」とか「異常」といった系の否定的な偏見も少なくないわけだが、TGに対しては―しばしば同性愛と混同されつつ―「気持ち悪い」というようなプリミティブな感情を抱く人がまだいるかもしれない。
 そういう人はおそらく生物学上の性別を絶対不動のものと観念しているのであろう。しかし、人間の性別は生物学的基礎に立ちつつも、より複雑な構造を持っており、むしろ自分は女性だとか男性だといった自意識上の性別(性自認)により大きなウェートがあるのではなかろうか。
 実際、同性愛者を含め、性同一性が認められる大多数の人たちは持って生まれた生物学上の性別をそのまま自意識上の性別として受容しているだけのことであって、両者にずれが生じるTGとの差異は相対的なものにすぎないとも言える。その点では、TGの人と他の人を「同じ人間」として包摂することは案外難しくないはずである。
 なお、例題には掲げなかったが、TGの人たちにとって切実な問題となるのは、戸籍上の性別記載である。戸籍は国民の身分関係を管理・証明するための伝統的な登録制度であって、性別記載が当然視されているが、この記載は生物学上の性別によることが原則であるため、TGにとっては自意識上の性別と異なる性別記載が押しつけられる結果となり、戸籍を前提とする社会生活上の上で様々な不便・不利益をこうむる。
 その状況を解消する最も簡明な方策は、[a]で論じたように、戸籍上の性別記載をも削除することである。しかし、日本の戸籍は婚姻家族ごとに作成されるところ、レッスン7でも見たとおり、日本では同性婚が許されないため、異性同士の夫婦であることを確認する目的から、戸籍上の性別記載は必須事項になっているものと考えられる。
 となると、もう一つの方策として、戸籍上の性別記載を前提にTGに限っては性別記載の変更権を認めることが考えられる。このような方策は、TGに対して戸籍上特別の権利を与える一種の優遇措置であるが、これはTGの人たちの社会生活上の支障を取り除き、かれらを対等な社会成員として迎え入れる包容政策としての積極的な差別是正措置(アファーマティブ・アクション)の一種とみなすこともできる。
 日本でも、近年制定された特別法(性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律)によってTGの性別記載の変更が認められるようになったが、いくつかの限定条件付きのものであって、まさしく「特例」としての性格が強い点に批判もある。
 包容政策という観点からもう一度とらえ直し、TGに幅広く性別記載の変更権を保障すべきであろう。

注 TGの中でも、医学的に自意識上の性別への適合治療を必要とすると診断される状態を「性同一性障害」と呼ぶ。こうしたトランスセクシュアルな状態は精神疾患の一つに分類されるが、近年スウェーデンのように、これを精神疾患からは外す動きも出ている。

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