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2011年12月20日 (火)

〈反差別〉練習帳(連載第29回)

実践編

レッスン5:犯罪者差別

例題1:
[a] あなたの家の近所に、国が管理運営する重罪犯専用の刑務所の建設が予定されているとする。建設反対の署名運動を始めた近所の知人から署名を求められたとして、あなたは署名するか。

(1)署名する
(2)署名しない

[b] [a]の事例を変えて、建設が予定されているのが刑務所を出所したばかりの重罪犯の更生を図る民間の施設だったらどうか。

(1)署名する
(2)署名しない

 犯罪者差別という現象は通常、犯罪を犯した個人を直接に排斥するよりも、本例題のように、刑務所のような施設をいわゆる「迷惑施設」に見立てて、その建設反対を訴えるというような形で発現してきやすい。
 おそらく、[a]と[b]いずれの場合でも、反対署名をするという人が少なくないと推測される。その理由として、「不安」とか「子どもへの悪影響」などが挙がってくるだろう。
 しかし、[a]の場合は国が管理運営する正式の刑務所ということで、受刑者は身柄を拘束された状態にある。しかも、日本の刑務所では脱獄事件もほとんど起きないから、受刑者が近隣住民と直接に接触するようなことはまず考えられない。従って、「不安」等の理由は当たらないだろう。
 これに対して、[b]の事例は刑務所を出所したばかりの人の更生を図る民間の施設ということで、入所者は身柄を拘束されておらず、何らかの制約はあるとしても、出入りは基本的に自由と考えられるので、「不安」等の理由も理解できなくない。特に、例題では出所したばかりの重罪犯の更生を図る施設というだけに、再犯の危険性を懸念する意見が噴出するだろう。
 ただ、再犯の危険性をゼロにすることはできないので、再犯の危険性がゼロでない限り、重罪犯は刑務所に閉じ込めておくべしということになると、これは厄介者は施設へという日本式の「隔離主義」の一例となる。しかし、「隔離主義」はどのような場合でも真の問題解決とはならない。
 社会内で生活しながら再犯の危険を除去するためには、刑務所を出所したばかりの人がどこかに紛れ込んで姿を消してしまうよりも、一定の場所で指導を受けながら暮らすほうが効果的で、かえって社会の安全を高めるとさえ言える。
 なお、[a][b]いずれの場合でも、何はともあれ近所に犯罪者を集めた施設がやって来るということ自体を感情的に不快とする意見もあるかもしれないが、それこそ典型的な犯罪者蔑視の差別である。

例題2:
[a] 性犯罪の前科のある住民の住所・氏名を近隣の住民に開示して注意を呼びかけるという内容の法案ないし条例案が提出されたとする。あなたはこの提案を支持するか。

(1)支持する
(2)支持しない

[b] [a]の事例を変えて、性犯罪の前科のある者にGPS(全地球測位システム)による監視装置を装着し、警察が対象者の動静を常時監視するという内容の法案ないし条例案であったらどうか。

(1)支持する
(2)支持しない

 犯罪を犯した個人を標的とした排斥的な事態が生じるとすれば、本例題のように国や地方自治体の具体的な施策を通じてであろう。
 一般的に住所・氏名のような居住情報は重要な個人情報であるはずだが、[a]では性犯罪の前科のある住民については、居住情報を近隣に開示することによって、その前科者を近隣住民が警戒し、避けるように仕向けるという制度である。
 一見乱暴な策のように見えるが、どこに性犯罪者が居住しているか一目瞭然となり、「安心・安全」を高めると考えて、支持する人は少なくないのではないだろうか。
 この法案ないし条例案はまさにそういう視点からのものであって、性犯罪前科者を差別=劣等視するのではなく、危険視するものにすぎないという読み方もあり得よう。
 しかし、このような制度は性犯罪前科者を半ばさらし者にして、地域で孤立させるに等しいものであり、場合によっては近隣住民による転居要求などの具体的な排斥行動を誘発する恐れもある。その意味では、犯罪者排斥の制度化と言ってもよい。
 その点に着目すれば、こうした制度には性犯罪者に対する単なる危険視を超えた差別=劣等視が多分に内包されていると評価せざるを得ないように思われる。
 そこで、性犯罪前科者の居住情報の開示範囲を地域の学校や未成年者の保護者などに限定するといった限定開示策なら差別的とは言えないのではないかという考え方もあり得る。
 しかし、この場合も、開示された情報が学校関係者や保護者らを通じて近隣に伝播していく可能性は否定し切れず、結果として近隣に広く開示するのと変わらないであろう。
 こうした「さらし」の結果としての前科者の社会的な孤立化は、かえって更生の妨げとなり、(近隣以外の場所での)再犯の危険性を高めるということからしても、[a]のような制度は逆効果的な失策であると言えよう。
 これに対して、[b]のGPS監視であれば、前科者の居住情報を開示することなく、警察が対象者の動静を常時監視できるので、プライバシーの侵害も限定的で、かつ対象者の動静を広範囲に把握できることから、すでに導入している諸国もある。導入していない日本でも一部自治体で導入の動きがある。
 たしかに、この方法であれば[a]のような「さらし」によって生じる前科者の社会的孤立を避けられる可能性はある。
 しかし、GPS装着の事実が近隣に露見しないという確かな保証はない。また、そもそも生身の人間に常時監視装置を装着するという一種の動物的な扱い自体が、犯罪者を劣等視する差別と言わざるを得ないのではないかという問題もある。
 海外で効果を上げているからと飛びつく前に、他により差別的でない再犯防止策を研究してみるべきではないだろうか。

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