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2011年11月22日 (火)

〈反差別〉練習帳(連載第21回)

実践編

レッスン2:障碍者/病者(続き)

例題5:
あなたが結婚を前提に交際している相手から、ある遺伝病を持っていることを打ち明けられた。あなたならどうするか。

(1)別れる
(2)交際を続ける

 ここからは病者差別の例題である。病気は、日本古来の観念ではケガレとして忌避されることもあったが、現代ではさすがに病気をケガレとみなす観念は出てこないだろう。すると、交際相手から遺伝病の存在を打ち明けられた人がそれだけで「別れる」としたらその理由は何だろうか。
 病気の中でも外見上はっきりした障碍をもたらすのではなく、外見からは全くわからないような病気であっても、遺伝病となると、「遺伝性」という一つの医学的な烙印が押されたに等しく、相手の家系自体が何かしら劣等的であるかのような感覚が生じ、とりわけ結婚相手としてはふさわしくないように見えてしまうということだろうか。そうだとすれば、それはまぎれもなく差別である。
 実際のところ、ある病気を「遺伝病」とみなすことに医学的根拠がなく、そのようにみなすこと自体が差別行為となる場合もある。例えば、前回の例題4で見た精神障碍である。
 こうした場合、「遺伝学」というそれ自体としては正当な学問が差別の道具として使われているわけで、これが優生思想とも結合されたうえ、遺伝病差別が形成されていく。
 なお、「生まれてきた子が同じ病気にならないか心配」という理由で結婚をためらう場合もあるかもしれないが、これも遺伝病の承継可能性を劣等視する含みがある点で、差別的であることに変わりない。
 例題5では、交際をやめるべき正当な理由が他に見当たらない限りは交際を続けることが包容行為ということになるだろう。
 なお、例題では取り上げなかったが、遺伝病に関しては、就職上の差別という問題もある。これは労働効率や医療保険上の負担を懸念する経営判断が絡む問題で、単純な差別問題を超えた要素を伴う難問である。 

例題6:
国際的に伝染病Xが大流行しているとする。そこで、政府は「国際空港で入国手続を申請したすべての人に強制的な検疫を実施、感染の疑いがある人は直ちに病院に隔離する」という対策を決めた。あなたはこの対策を支持するか。

(1)支持する
(2)X病が強毒性の場合は支持する。
(3)支持しない

 伝染病に関するいわゆる「水際作戦」である。「水際作戦」といっても、通常は本人の同意を取る任意の方法で実施されるが、例題は一律強制検査・隔離という強制の方法によるものであるから、その是非をめぐって議論になるだろう。
 一般に伝染病患者の強制隔離は強毒性で伝染力の強いのものに関しては、公衆衛生上のやむを得ない措置として認められるが、これは伝染病の蔓延を防ぐための正当な措置であって、差別に当たらないことはもちろんである(ただし、長期隔離については人権上の問題がある)。
 しかし、国際空港での一律強制検査・隔離となると、相当に強硬な対策であり、ここには伝染病患者一般を危険視する考えが含まれているように思える。
 こうした危険視はそれだけでは劣等視=差別に当たらないが、入国者一律の検査・隔離という強制措置はまるで伝染病患者それ自体を「病原菌」とみなすかのような前差別行為的対策と言わざるを得ない面がある。
 そこで、(2)のように、「X病が強毒性の場合」という条件付きであれば一つのバランス策であるように見える。しかし、そうした場合でも、「一律強制検査」が正当かどうかにはなお疑念が残る。それによって、実際、伝染病の水際阻止の効果が上がるかどうかの保証も確かでないとなるとなおさらである。
 かつてケガレは人から人へ「うつる」ものと考えられていたらしいが、伝染病はまさに「うつる」病気であることから、ケガレ観念が廃れた今日でも、不浄視されやすい病気の筆頭である。しかし、宗教的意味合いを失った不浄視は劣等視の一形態であり、まさに差別に当たるのである。
 そこで、「伝染病」という言葉自体を一種の前差別語とみなし、その使用を控えるという流れが出てきている。実際、1998年に制定された現行感染症法では「伝染病」の用語を廃止している。とはいえ、感染症の中に「うつる」性質のものがある事実に変わりはない以上、用語の変更が差別克服の決定的な契機となるかは微妙である。

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