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2011年10月25日 (火)

〈反差別〉練習帳(連載第13回)

理論編

八 差別救済のあり方

 前章まで、差別克服という観点から差別の定義に始まり、反差別教育のあり方までを論じてきたが、理論編の最後に、いざ差別が発生したときにどうするか、すなわち差別救済のあり方を考えてみたい。
 再三述べたように、自分には差別される理由はない、むしろ差別する側だという絶大の自信を持つ人も、思わぬところで自らが差別される立場に立たされる可能性があるのが差別という現象の怖さである。
 そうした場合、泣き寝入りするしかないということでは差別は救済されないまま放置され、増殖していくであろう。四でも指摘したように、〈反差別〉とは差別の根絶を目指すことではなく、その克服を目指すプロセスのことであるとすれば、差別はそれが発生したつど適切かつ迅速に救済が図られなければならない。その集積を通じて差別克服のプロセスが展開していく。

命題34:
もしあなたが差別されたと感じたら、泣き寝入りせず、その場で抗議するか、職場・学校の然るべき担当者・担当部署に申し出るべきである。

 「差別された」と感じても泣き寝入りするというのは長い間、被差別当事者がまさに泣く泣く従ってきた方策であった。かつては、差別救済制度も不備であったから、当事者も泣き寝入りする以外になかったのである。そのようにして当事者を沈黙に追いやることにより差別は生き延びてきた。
 やがて、一部の被差別当事者が抗議の声を上げるようになった。制度がなくても自分で実行できる救済が抗議だからである。一人でもその場で「その差別行為をやめてほしい」と抗議することは誰でもできることである。もし勇気を必要とするようであれば、同じ立場の仲間や支持者を募って集団で抗議することも検討されてよい。この場合は一つの集団的糾弾行動となる。
 ただし、このような自力救済型の行動には落とし穴もある。もし抗議・糾弾が行き過ぎて暴行・脅迫に及べば、犯罪行為として刑事責任を追及されてしまうからである。
 そこで、自力救済によらずに、まずは学校や職場の担当者・担当部署に救済を申し出るということも一つの方法である。近年は学校や職場に人権担当者・部署のような内部的救済機関が設置されていることも少なくない。例えば、性差別の一形態であるセクシュアル・ハラスメントについては職場内に救済部署が設けられていることもある。
 残念ながら、差別全般についての内部的救済機関が置かれている職場・学校はまだまれであろうが、いずれそうした流れができていくことが望まれる。

命題35:
内部的救済機関でも解決しないか、そうした機関が存在しない場合は、外部の当事者団体または支援団体にコンタクトを取ってみる。

 職場・学校の内部的救済機関でも解決しないか、そもそもそうした機関が存在しない場合、次の一手として弁護士や法務局などの法律専門家・機関に相談するということが考えられる。
 しかし、注意すべきは、こうした専門家・機関が「差別救済」という問題意識を十分に持っているとは限らないということである。それほど、日本では差別という問題はまだ法律専門家・機関の間でも共通認識を形成できておらず、人権問題一般の延長ぐらいにしか認識されていない。
 それよりも、各差別問題ごとの当事者団体や支援団体の方が、差別救済に関する情報・経験を蓄積していることが多い。そこでまずはこうした当事者団体や支援団体とコンタクトを取って、相談に乗ってもらう方がよいであろう。訴訟問題に発展する場合も、各差別問題に関して詳しい良心的な弁護士を紹介してくれる可能性もある。
 今日、こうした団体の多くはインターネット上にウェブサイトを開設しているので、それを調べたうえで信頼性のある団体とコンタクトを取ってみることが有益である。
 このように、被差別当事者と法律専門家・機関とをつなぐ架橋的な独立的民間団体の層が分厚くなること―理想的には問題横断的なネットワークが形成されること―は、差別克服を前進させるうえで重要な条件となるであろう。

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